潮目が変わった個人不動産投資マーケット

近年、地主や資産家ではない一般の会社員等の間で、不動産投資がブームとなり、
いわゆる「サラリーマン不動産投資家」が急増しています。背景には、国の年金制度に対する不信感や、
終身雇用制の崩壊及び日本を代表するような大企業の相次ぐ経営不振やリストラの実施等によって、
会社員としての将来に不安を持つ人が多くなっているという社会情勢があると思われます。不動産投資による家賃収入で、
「給料以外の収入の柱を持ちたい」、「老後の私的な年金としての収入源を確保したい」といった動機が目立ちます。

また、アベノミクスが始まって以降、量的金融緩和策・超低金利政策の影響で、
金融機関が不動産への貸出に走らざるを得ないという事情があいまって、
個人向けの不動産投資用融資いわゆる「アパート・マンションローン(以下、「アパマンローン」)の融資残高が急速に増加しました。

更には、2015年に実施された相続税増税の影響で、多くの土地オーナーが相続税対策のために、融資を受けてアパート、マンションを建設しました。

他にも、外国人観光客の増加に伴うホテル需要の高まりや再開発事業の進展等の要因もあり、不動産需要が旺盛で堅調に推移し、結果として地価が上昇。

国土交通省が発表している公示価格は、2017年で全国・全用途平均は0.4%上昇。三大都市圏は、住宅地・商業地ともに4年連続で上昇。
うち商業地は三大圏商業地全体で3.3%の上昇、東京圏が+3.1%、大阪圏が+4.1%、名古屋圏が+2.5%。
また、今年9月発表の基準地価では、商業地の最高価格地点の東京都中央区銀座「明治屋銀座ビル」で、
1㎡単価3890万円となり、バブル期の3800万円を超え、過去最高となりました。

日銀によると、2016年12月末の国内銀行のアパマンローン残高は前年比4.9%増の22兆1668億円に拡大。
過剰融資が貸家の「建設バブル」を助長する懸念も出ていました。

こうした地価上昇の状況下で、これまでは2020年の東京オリンピックが不動産マーケットの節目と見られ、
その1~2年前には利益確定のための売却増加で、地価の天井が来るのではないかという見方がありましたが、
その予想よりも早い、2017年に、個人の不動産投資マーケットは潮目が変わってきました。

というのは、2016年の9月、金融庁が不動産向け貸出(個人 向け アパマンローン含む)の増加について、
「今後の動向について注視が必要」と指摘し、日銀も2017年4月に「地域によっては賃貸住宅の空室率が高まっており、
これまで以上に入口審査や中間管理の綿密な実施が重要」と警鐘を鳴らし始めたからです。

金融庁の方針を受け、2017年に入ってから金融機関は、個人向けアパマンローンに対する審査を厳格化する傾向が強まり、
2017年1-3月の国内銀行の「個人による貸家業」向けの新規貸出は前年同期比0.2%減の1兆0508億円と、2014年10-12月以来の減少に転じました。

過去のバブル崩壊(1990年以降)、リーマンショック(2008年)からもわかる通り、不動産のマーケットは融資環境に大きく左右されるため、
融資が出なくなると取引が減少し、価格も下落します。

実際に、私が相談を受けている中でも、昨年であれば融資を受けられたであろう人が、
今年になって融資を断られているという事例を目にするようになり、一方で所有中の収益物件を売却したいという相談が増加しています。

不動産価格変動は、株価や為替とは異なり遅行性があるため、価格下落が表面化するまでには数ヶ月の時間を要しますが、
今後、個人の不動産投資家を中心とした収益不動産(主におおよそ3~4億円位までの一棟アパート・マンション)のマーケットは、
価格が下落傾向に転じることが予想されます。

(本記事は、週刊ビル経営 2017年11月13日号寄稿を加筆修正したものです。)


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